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Ans Studio 『Neuro fabrics:ニューロ・ファブリクス』

次世代型建築モジュールの提案である。従来の経験的な手の仕事と先進的なコンピュータ技術を融合し「木」の可能性を最大限に引き出す試みだ。形のふるまいはNetworkedcoding system と名付けたコンピュテーショナル・デザイン手法によって生成されている。

この手法は、形態生成プログラム、構造最適化プログラム、デジタルファブリケーションのための旋削加工プログラムを相互に連動させたインタラクティブな仕組みである。各過程において生成される成果は、注意深く観察・検証され、再びコード化されて組み込まれる。

これらのプロセスを繰り返すことで、工程は最適化され、独自なモノづくり手法へと発展してゆく。型を必要とするプレス加工技術とは異なり、切削しやすい木の性質は、多品種少量生産を主体とするインタラクティブなモノづくり手法に適している。19 世紀半ばから20 世紀にかけてを鉄とガラスの時代とするならば、次の時代では木の可能性に再び注目が集まるだろう。

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[essay: 情報と物質とそのあいだ]

 

「Design is relationships. Design is a relationship between form and content.(デザインとは関係性である。形と中身の関係性だ。)」

-ポール・ランド はデザインの講義でそう語った。
「すべての芸術は関係だ。すべての芸術が。そこから始めるべきなんだ。それが出発点だ。」とポール・ランドは続ける。「…すべては関係なんだよ。これとこれ、これとこれ、これとこれ、すべてが関係していて、それがいつも問題だ。」

形と中身の衝突、ないしは形と中身が相まって生まれるもの、それがデザインだ。 しかしながら、形と中身はまったくの相反するものである。デザインを生み出すプロセスにおいて、形すなわち「物質」と、中身すなわち「情報」という全くの違う次元のものを関係づける作業が求められる。この相反する2 つのものを関係づけるためには、これらを取り持つ媒体(ミドルウェア)が必要不可欠である。ここで言う媒体とは、デザインを繊細に操るための仕組みであり、言わば、形を導くための設計図だ。これがユニークであればあるほど、形は単なる表層的な役割を越え、中身との関係性を語りだす。

私たちが目指す設計図とは、物質と情報との相互のやりとりを可能にするインタラクティブな仕組みである。物質は、n 次元の多様な情報によって定義され、情報は、物質の変化に適応することで再帰的な関係性を構築している。n 次元の情報とは、周囲の環境や現象に潜んだアルゴリズムを示す。例えば、力のふるまい、光のふるまい、風のふるまい、水のふるまい、音のふるまいなど様々である。こうした複雑、且つ刻々と変容する情報を形に関係付けるためには、コンピュテーションを用いた手法が最も適している。
花や樹木が、場所や季節によってさまざまな形に成長していくように、周囲の環境情報と物質との関係性からデザインを思考すること。環境の変化に呼応しながら、継続的なデザインを導き出すこと。それがアンズ(AnS : Architecture [ モノ] + nSurroundings [n次元の周囲環境] ) の名前の由来であり、アンズスタジオの活動を支える哲学でもある。

単に形を操作するのではなく、関係性から形を生成する。物質と情報との対話の中で築かれてゆく関係性こそが、デザインの価値を継続するのである。物質と情報が共に奏でる新たなデザインの可能性に、ワクワクせずにはいられない。

※ポール・ランド(Paul Rand, 1914 年8 月15 日 – 1996 年11 月26 日)アメリカ合衆国の著名なグラフィックデザイナー。IBM、ABC テレビなどをはじめとする様々な企業のロゴデザインで知られている。「ポール・ランド、デザインの授業」より引用。

 



[略歴] (2013/06)

AnS Studioはコンピュテーショナル・デザインを実践するスタジオとして設立されました。最先端のテクノロジーを活かしたデザインの研究開発を専門とし、コンピュータを自由に且つ繊細に扱いながら手の仕事を越えた新しい時代の「豊かさ」を創造しています。

竹中司
武蔵野美術大学 建築学科修士課程修了後、同大学助手、講師を経て、2005-08年 ブリティッシュコロンビア大学 建築学科大学院 客員講師。2009年 アンズスタジオ共同設立。豊橋技術科学大学 研究員。人間・ロボット共生リサーチセンター 運営委員日本建築学会 3次元設計教育小委員会 委員。日本建築学会 アルゴリズミックデザイン小委員会 委員

岡部文
ブリティッシュコロンビア大学 建築学科先進建築学修士課程 首席修了。2009年 アンズスタジオ共同設立。
豊橋技術科学大学 研究員。主な受賞に武蔵野美術大学優秀作品賞、JIA卒業設計コンクール長谷川逸子賞。建築と植物の新しい関係性を示唆した論文「Translating Serial Relations」で高い評価を受け、Merrick Architecture Graduating Prize 受賞、Governor General’s Gold Medalにノミネート。

www.ans-studio.com