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美濃部幸郎(美濃部幸郎アトリエ) 『Red Venation Fence ‒ 小石川植物園のフェンス(2011-)』

大判レーザー加工:まどか株式会社

小石川植物園(東京都文京区)に新設されるフェンスの計画である。デザイン・コンペティションで最優秀案に選ばれ実施案となった。園の南西側境界に約800m に渡り設置される。フェンスのパネルは1,150×1,000 ㎜のコールテン鋼製で、歩道から植物園へと湾曲している。表面には4・5・9・11 ㎜角の穴が約5,000 個空けられ、葉脈の模様を描いている。

この多数の穴が植物園の内外の空気の流動を促し、視線を透過させ歩道と連続した空間を形成する。葉脈の模様は、自然の葉の成長原理をコンピューターでシミュレーションすることで生み出している。自然の葉脈は、オーキシンという植物ホルモンが信号を発し葉の根元へと流す過程で、そのかたちが生成される。これは概念的には、川や樹木、あるいは生物の血管等に見られる「枝分かれ」するかたちと類似する。自然界の普遍的な摂理を顕すかたちである。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

“Architecture to Music of the Spheres - 天球への建築
パッラーディオにみる数的構造による自然の建築化”

「Music of the Spheres-天球の音楽」という美しい言葉がある。”Sphere” とは「天空」、天文学的には「天球」、詩的には「天体」のことだ。かつてヨーロッパを中心とする文化圏では、宇宙は地球を中心に幾重にも重なった透明の球の上に星々が貼り付いたもので、星々は軌道の上を動くときそれぞれに特定の音を鳴らし、全体として音階を奏でると考えられていた。これは古代に限った考えではなく、例えば惑星の運行法則を発見したヨハネス・ケプラーも真剣にその音階について考察していた。現代でも天使と音楽はよく結びつく。
この「Music of the Spheres」という言葉は、人間が自然の物質の振る舞いから得た情報によって、どのような世界観を構築していたのかを象徴してもいる。音楽はかつて哲学や神学の前に修めるべき学問(算術・幾何学・天文学そして音楽)のひとつであり、音楽を探究することと自然を数学的に理解することは同義であった。その歴史はプラトン、そしてピュタゴラスにまで遡る。音階と数学を最初に結びつけたのはピュタゴラスと言われているが、エジプトやアジアへの遊学でそれを得たとも伝わる。弦の中心を押さえて鳴らすと、開放弦の1オクターブ上の音が鳴る。このとき開放弦の長さとの比は2:1となる。同様に1/3の点を押さえれば(3:2)、その5度上の音が、1/4の点では(4:3)、さらに4度上の音が鳴る。これらは原音と協和し心地良く響く。ピュタゴラス、あるいはピュタゴラス派は整数比で分割された弦が調和した音階(ハーモニー)を形成することから、この宇宙には全てが調和する秩序があり、それは数で形成されていると考えた。プラトンはさらにこれを発展させる。『ティマイオス』において、造物主が絶対的な1から2を生み、さらに3、4(22)、9(32)、8(23)、そして27(33)へと続く数的構造によって世界を創世したとする。さらにこれらの数が音階を生み、惑星の軌道半径にも対応するとした。このように”Music” と”Sphere” が結びついた「Music of the Spheres」は、全てが調和した宇宙の根源に数的構造があることを含意している。
ルネサンス後期の建築家であるアンドレア・パッラーディオは、この数的構造によって空間を構成した。部屋の幅や奥行きをピュタゴラス-プラトンの整数比に対応させるだけでなく、隣り合う、あるいは離れた部屋どうしの寸法の比まで関係づけた。つまり、数的構造によって建築の部分と全体の関係を構造化したと言える。ルネサンスはギリシアやローマの遺構・遺稿の理解によって、失われた古代の理想世界を復興することからその文化を生み出した。それゆえパッラーディオの建築もまた、その理想世界にかたちを与えたものである。しかし具体的にそこで発明されたのは、神の造物である「自然」を単純な数的構造からなるものと捉え、自然と同じ構造を持つものとして、建築にかたちを与えるという方法である。もちろんその「自然」は、自分た
ちを包む世界を生成し続ける秩序を、敬虔に求める人間の意思が見る、自然のモデルである。そしてこの概念上の自然のモデルが物質として建築され、私たちを包み込み、また自然に包まれていく。パッラーディオの建築には、数によって自然の理と建築が有機的につながる端緒をみることができるのである。

【参考文献】
Wittkower, Rudolf. Architectural Principles in the Age of Humanism, 1971
James, Jamie. The Music of The Spheres : Music, Science and The NaturalOrder of The Universe, 1993
キティ・ファーガソン. ピュタゴラスの音楽, 2011

 



[略歴](2013/06)

美濃部幸郎アトリエは、「architectural ecologies – 建築的生態系」をテーマとして、建築・生物学・コンピューター・サイエンスの境界領域で、「ひとが考える自然」を、かたちにすることに取り組んでいる。

1990 京都大学電子工学科卒業
1995 早稲田大学建築学科卒業
2000 東京工業大学博士課程修了
2000 岡山県立大学デザイン学部 教務職員
2003 国士館大学建築デザイン工学科 助教授
2009 A. A. School, Emergent Technologies and Design 修了
2009 美濃部 幸郎 アトリエ 設立

http://architecturalecologies.com/


[主な作品]

 

minobe_01

Red Venation Fence 小石川植物園フェンス・デザインコンペティション 最優秀賞(2011)

 

minobe_02

Cellular Respiration Roof 新山口駅表口駅前広場整備設計プロポーザル (2011)
エンジニアリング・コンサルタント:アラップ・ジャパン

 

draw in fluids ( 2010 – )

 

airflow form-finding ( 2010 – )