« mtrlzng III » | 山本悠

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(撮影:来田猛)

『情報くんと物質ちゃん』

声の出演 遠藤麻衣
     永田康祐

音楽   一輪社


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

「物質ちゃん、塩をさわるのはよしなさい」先生はやさしく注意しました。
「はあい」
「返事はハーイじゃなくて、はいです」
「はい」
物質ちゃんが立ち上がると、わたしと先生と物質ちゃんは、まっすぐにならんで歩きはじめました。物質ちゃんはすぐに道草しようとするので、わたしはいつも一番うしろを歩きます。物質ちゃんが置いていかれないようにするためです。
物質ちゃんの代わりに、毎日わたしが罰を受けているみたいだと、お母さんに話したことがあります。お母さんは学校はそういうところだと言います。物質ちゃんのせいで、わたしのお家がとおくとおくにある気持ちになります。お母さんに早く会いたいな。

「先生、どうして道にお塩が置いてあるのですか」
物質ちゃんは何も知らないんだ!とわたしは思いました。先生は答えませんでした。
「点子ちゃん、あなたはお塩のことを知っているね」わたしは少し考えてから返事をしました。
「はい」
「では、物質ちゃんにお塩のことを教えてあげなさい」
先生が命令するので、いやですとは言えませんでした。

わたしは勇気を出して、物質ちゃんに教えてあげようと思いました。
「お塩はね、悪いものが入ってこないように置いてあるんだよ」
「えっ」物質ちゃんは言いました。
「悪い人って、泥棒?」
「ちがうよ」物質ちゃんは突然ひそひそ声になって、言いました。
「人殺し?」
わたしはおかしくなって、笑ってしまいました。わたしも物質ちゃんのまねをして、ひそひそ声で答えました。
「人じゃないんだよ」
すると、さっきまでふつうに聞こえていた自動車や先生の靴の音まで、わたしたちのひそひそ声と同じように、小さくしずかになったように感じました。
物質ちゃんがわたしを見つめるので、わたしはきみわるくなりました。
「悪い動物が来るの?」
「ううん」わたしはすぐに返事ができませんでした。
物質ちゃんはうでぐみをして、目をつぶりました。わたしは、このままでは物質ちゃんが車にひかれる!と思って、焦りました。しばらく歩くうちに、わたしにはある考えがうかびました。

「鬼とかだよ」
「鬼?」
物質ちゃんはそんなの嘘だという表情をしていました。わたしは後悔しました。わたしも、嘘だと思いました。先生はどうしてわたしに塩のことを教えなさいなんて命令したのかしら。わたしには、わからない。
物質ちゃんは、自分の考えを元気な声でさけびました。
「鬼は豆でしょ!」
引っ越し屋さんのトラックがうなりをあげて通り過ぎ、先生は大きな声で笑いだしました。わたしもおかしくなってちょこっとだけ笑いました。

先生、今日はこくごの時間に「はる」っていう詩のお勉強をしたけれど、わたしはいま、「なつ」って感じがしています。いまは、とっても暑いからです。物質ちゃんのお家の前でわかれるとき、こんど遊びに行く約束をしました。物質ちゃんの妹と、三人でビーズ作りをして遊びます。

 



◉[III]出展者プロフィール

山本悠
2013年、主演作品「悠になりたかった犬」でドラマデビュー。
http://yuuyamamoto.jp/


 

◉主な作品
III_yamamoto2[悠になりたかった犬]
ドラマ
『悠になりたかった犬 第一話公開 タダ飯を山で食うより』

『悠になりたかった犬 第二話』

『悠になりたかった犬 第3話』

『悠になりたかった犬 第四話』