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doubleNegatives Architecture 『なご原の家』

設計・プログラミング:ダブルネガティヴスアーキテクチャー[dNA]
構造設計:ロウファットストラクチュア

dNA が研究・開発している『コーポラ』というマルチエージェントシステムによって設計された住宅。全方向を視ることのできる視点、『Super Eye』と名づけられたエージェントは、設定された感知範囲を走査し、敷地の形状、境界、許容最高高さ、岩、樹木といった障害物を感知しながら敷地内に存在する。エージェントは構造結節点となり、それぞれの関係は極座標によって表記され、施工性の観点から、最大接続数、最小接続角度、構造的に妥当な接続形状を判断する。エージェントがつながったネットワークを、想定建設面積、総部材数(経済性)、結節点数(経済性)、陸屋根禁止(条例)、大きな樹木・岩の温存(条例、要望)、平均強風向に対し小さな角度に(環境特性)、といった内容を評価し結果を収束させる。エージェントの感知距離(3m 前後)の線部材がどのように居住空間を囲い取るのか、というフォームファインディング・プロセスが展開されている。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

 

文字を読み書きする、ということはデジタルな物理量をあつかうということであり、手書きの文字自体がアナログな量であっても、その意味はデジタルな量の定義に基づく。文字(記号)は、どのような筆跡で記述されようが、モニター上にどのようなフォントで表現されようが同じものとして理解される。デジタルは非連続的に変化する物理量であり、記号はそのデジタルの量によって表現される。情報はこのようなデジタル量の定義によって生成されるものであり、建築設計という行為は物質を定義の集まりとして情報化し、記述、表記し、解釈、考察、検討することに多く注力される。それがコンピュータを介したものであろうが、手作業で行ったものであろうが、デジタルな物理量を扱っているということに相当の違いがあるだろうか。

パーソナル コンピュータの性能向上、低価格化、一般化により、一人のデザイナーが持ちえる情報管理能力、情報処理能力が上がり、扱える情報の量が増えたとはいえ、根本的なデザインの手法や思想の変更がそこにあるとは考えにくい。しかしながら、量が膨大である故に、その違いを軽視することはできなくなってくる。情報管理能力、精度、処理能力の圧倒的な量の増大は、それを扱う人間の感覚の限界線を移動させる。人間がソフトウェアの能力を借りて見渡せる範囲が広がれば、コントロールできる範囲も広がる。表記記述できるものが増えれば、作れる範囲も広がる。と同時に、見えすぎるということは、見えないということと同じ、という感覚も起こりうる。圧倒的な量をそのまま扱うことで、見えるもの(見るべきもの)が変化し、より沢山見ることかもしれないし、フィルタリングにより上澄みを見ることかもしれない。あるいは、同じ情報を異なった表記方法によって、異なった空間概念、異なった景色を見ることになるかもしれない。

最大の関心事は、人間の感覚が、このような圧倒的な処理量にサポートされることによってどのように拡張されるのか、あるいは退化するのか、ということであり、そこがコンピューティングやソフトウェアのリアリティであろう。人間の知覚が変化したり、拡張されることの方が興味深く、起こりうる重要な変化はそれを使う人間の側にあるといっていい。

扱える情報の量が膨大に増えたところで、非物質的な情報は、自走することなく、物質に直接作用できないから、情報と物質の関係を定義し、その定義に従って変換・翻訳していくことになる。これが「マテリアライジング」というべきステップだろう。しかしながら建物の場合、マテリアライズ(実現する)というステップを「情報を物質に変換する」、という純粋なシングルステップと捉えるには程遠い。図面、模型など様々なアイディアの断片である情報や物質の雑多な集合を統合し、社会規範に適応させ、想定した空間に、想定した物質によって、どうにかして実現すること、と経験的に捉えてきた。その一元的になりえない変換の釈然としない部分は、大雑把にスケールエフェクトへの対応、と考えられるような気がする。サイズが大きくなったというだけで物性の影響が増大し、環境や社会への影響も増大し、作り方自体も作らなければならない。量的な問題はここでも大きく作用してしまう。

今後も建物は100 年以上の施工実績のある枯れた材料(木、鉄、RC)によって作られていくだろうし、そのような想定で建築の記号や情報は定義されている。3 D プリンターで直接建築をプリントアウトすることも可能になりえそうだが、当分特殊な状況でしか使えないだろう。量的な問題からも、建物全体をプリントアウトするのは難題が多そうだが、例えば相似形が保たれる構造ジョイントを3 D プリントアウトし、そのものが(出力物を基に鋳物を製作したりせずに)軽量で強度、耐火性を持ち、構造評価が一般化できるのならば、ひとつのステージへ達したと言えそうだ。それはプリントアウト出力素材の物性にかかっているといっていい。装飾や2次部材ではなく、構造の主要部分に使われてこそ、3D プリントが建築という大きさ、量の問題、スケールエフェクトへ対処し、建設現場に食い込んだということになるのではないだろうか。

 



[略歴] (2013/06)

建築設計の手法・プロセスを研究・開発・実践しつつ、アーティストとのコラボレーションをおこなっている。 1995年、空間表記方法に関する「なめらかな複眼プロジェクト」を開始。97年にはKnowbotic Research『IO_DENCIES TOKYO』(キヤノン・アートラボ)に建築/都市リサーチコラボレーターとして参加。2004年に発表した三上晴子との作品「gravicells―重力と抵抗」は世界14都市を巡回している。1998年に建築ユニット「doubleNegatives Architecture」を開設。一連の「Corpora」プロジェクトは、07年に山口情報芸術センターにおいて「Corpora in Si(gh)te」として発表した後、第11回ベネチアビエンナーレ国際建築展でハンガリー代表として選出され、ヨーロッパ、メキシコなど5都市を巡回している。

市川創太

1972年,東京生まれ.1996年東京藝術大学大学院修了.2001-2004年東京造形大学非常勤講師.2001-2009年多摩美術大学非常勤講師.ノウボティック・リサーチ+キヤノン・アートラボ《IO_DENCIES 東京》(1997年)に建築・都市リサーチコラボレータとして参加.三上晴子との共作インスタレーション《gravicells[グラヴィセルズ]-重力と抵抗》(2004年)が世界12都市を巡回.1998年建築グループdoubleNegatives Architecture(ダブルネガティヴス アーキテクチャー)dNA 開設.グループの《Corpora》プロジェクトは2008年ベネチア・ビエンナーレ国際建築展でハンガリー国代表として出展された他,色々なヴァージョンで既に 世界11都市で展示公開されている.アーティスト中谷芙二子とのコラボレーション《MU:Mercurial Unfolding》(2009年)など.

http://doublenegatives.jp/


[主な作品]

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Corpora in Si(gh)te コーポラ・イン・サイト

メッシュネットワークセンサーを使った自然環境に呼応するリアルタイム仮想建築インスタレーション.山口情報技術センターにて初公開され、第11回ベネチア国際建築ビエンナーレ ハンガリー代表としてハンガリーパビリオンにて全館展示された他,ベルリン,リンツ,メキシコシティ,モスクワなどで招待展示された.

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