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東京2050+team 羽藤英二、森本順子、芝原貴史、福田崚 『東京2050+』

東京2050+は、3年前の丸ビルでの展示を発展・再考して東京の将来像を考え、可視化するプロジェクトです。今回の展示は、日本全国の都市256個の500年分の人口動態を2m×2m×2mの立体として1万個の粒子を配置して表現することで、2050年の東京の状態を体感してもらおうというものです。この作業を端緒として、2050年の都市計画プランの作成にも着手していて、東京のインフラストラク チャーから、環濠、緑辺、街道、界隈、台地といったランドスケープとモビリティの視座にたち、全国に89個1400万人の人々が暮らす10万都市と在郷町や島嶼集落といった小集落にも焦点をあてながら、2050年の東京像を再編集したいと考えています。

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[essay: 情報と物質とそのあいだ]

“東京2050+ “

私たちは一緒に逃げた。別れ道があった。私は右だと言い、彼女はすぐ戻るからと忘れ物を取りに戻った。私は村の小さな神社に辿り着いた。彼女の姿はなかった。濁流が押し寄せ、村を飲み込んでいった。3年が過ぎた。今年は烏賊が豊漁だ。信じられないくらい採れるのだ。港は貧相な集落からは遠かった。不便だった。ひとりの男が港のそばに家を建てた。男は大金持ちになった。しばらくすると我も我もと港の傍に町が出来上がった。私たちはかつて神社よりも高い場所で暮らしていた。今そのことを思い出す人はいない。事実はただの記憶になった。30年が過ぎた。男にも孫が出来た。小さな孫を連れて男は港から畝々と折れ曲がった道を歩き、高台によく登った。まもなく男は死んだ。男の子供たちは、遺言に従い高い場所に墓をつくった。その場所からは海がよく見えた。孫は青年になり恋人が出来た。50年が過ぎた。時間は無限に繰り返された。

Iから自宅に来てくださいとメイルが入った。会うと彼は美しい島のラフなスケッチを描いて見せた。私は応じるように式を書いた。大学に戻り、紙と鉛筆を使って1個の島についておよそ10年ごとに48回の計算を繰り返した。HPのノートPCを使ってそれを256個の島に対して繰り返した。255個の島は最後には残り1つのもっとも大きな島に飲み込まれた。居室の黒板を全部使って島の内部構造を定式化した。計算スケジューリングを滑らかに最適化し、境界条件を整理したうえで、島ごとにCPUの割り当てFX10を使って並列計算をしたが、結果は変わらなかった。私たちはスタイロカッターで直接計算結果を切りだしはじめた。ジェッソを重ねて丁寧に塗り、何度も鑢をかけて島々をつくりあげた。ピアノ線を使って12288個の球状の島々の500年を宙に浮かべたころには、それらはひとつに身体化されていた。

遠くに向けて投擲するように。東京2050を計画しようとしていた。リアリティはすべて一旦切断されていた。ひとり海辺の街を歩き、手掛かりを探していた.かつて建築であったモノで土地は覆い尽くされ,怒声が飛び交っていた.ドラム缶に火が焚かれ,夥しいブルーシートの覆いが並べられていた。その無数の中にやっとそれはあった。触れると思いの他ゴツゴツとした手触りが後に残った。雪はチラつき,無残に崩れ去った防潮堤の残骸の向こうで,海は美しい色を放ち光っていた。

 



[出展プロフィール]

東京2050+は、3年前の丸ビルでの展示を発展・再考して東京の将来像を考え、可視化するプロジェクトです。今回の展示は、日本全国の都市256個の500年分の人口動態を2m×2m×2mの立体として1万個の粒子を配置して表現することで、2050年の東京の状態を体感してもらおうというものです。この作業を端緒として、2050年の都市計画プランの作成にも着手していて、東京のインフラストラク チャーから、環濠、緑辺、街道、界隈、台地といったランドスケープとモビリティの視座にたち、全国に89個1400万人の人々が暮らす10万都市と在郷町や島嶼集落といった小集落にも焦点をあてながら、2050年の東京像を再編集したいと考えています。

bin.t.u-tokyo.ac.jp

羽藤英二

1967年愛媛県生まれ。様々な行動文脈に対するインセンティブが都心の回遊行動などのネットワー ク上の行動と心理の動学的諸相にどのような影響を与えるのか,ネットワークとインセンティブをどのようにデザインすべきかについて解析的 なアプローチで取り組んでいる。主 なプロジェクトとして「今治市しまなみ風景づくりプロジェクト」(2006-)、「東京2050//12の 都市ビジョン展 符号化/Coding」(2011)、 「長崎駅舎・駅前広場等デザインプロポーザル」(2014-)など。


[主な作品]

hato
東京大学羽藤英二研究室/設計領域「符号化/Coding」2011