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ご近所ものづくり同盟(菅野創 yang02 ヌケメ) 『Computed Copy』

デザインのコピーはファッションビジネスにおける常套手段である。有名デザイナーのコレクションやストリートから発生する流行をソースに、完全なコピーからシルエットやディティールなどの部分的なコピーまで、様々な「コピー」が氾濫している。いつか洋服もプリンターで出力されるような未来が来て、コンピュータのシステムによってデザインのコピーも行われるだろうか。
Computed Copyはデザインのコピーのプロセスをコンピュータに演じさせることで、人の手からは発生し得ないデザインの歪みを生成することを目的としている。


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 ご近所ものづくり同盟(菅野創 yang02 ヌケメ) 『Captured Desire』

3Dプリント協力:株式会社DMM.comラボ

人々の関心を多く集める被写体には多くのカメラが向けられる。撮影された画像たちはインターネットにアップロードされ、類似画像が溢れかえる。それは「撮りたい」という欲望と、「アップロードしたものを見て欲しい」という欲望が結実した結果であると言える。画像から3Dモデリングを行うAutodesk 123D Catchを用いることにより、それらのアップロードされた画像からモデリングを行い、2Dだった被写体に厚み/重みを持たせる試み。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

– ご近所ものづくり同盟(菅野創 yang02 ヌケメ)

ディスプレイ、スピーカー、プリンターに代表される、データを人間が知覚できる状態にするためのテクノロジーは、高い解像度と高いシグナルノイズ比を目指して進化していく。十分進化した状態においてそれは一見歪みがないように知覚されるが、それが理想の状態で使用されなかった時や、本来想定されなかった方法で使用した時、エラー、ノイズ、グリッチという歪みが姿を見せる。そこからは、そのテクノロジーの性質を垣間見ることができる。

ものごころついた頃からデジタルテクノロジーに囲まれていた世代の僕達にとって、それはテクノロジーがどうやって情報を処理しているのかを知る手がかりとなり、今まで気にすることのなかった隠れた性質・構造の存在を露呈してくれる。

テクノロジーの歪みは、音や映像のように波や光として出力される際には固定化されることなく、物理的に存在することができないが、データを物質として出力することで、エラーやノイズ、グリッチといった歪みも同時に物質化され、ビットとアトムの境界を超える。未だ発展途上にある「データを物質化するテクノロジー」は、多くの歪みを内包しうる隙を持っている。

今回の2点の出展作品は「そのうちそうなるかもしれない」と僕らが想像した未来の、現状のテクノロジーで実現可能な範囲でのシグナルノイズ比の低い、未来から見れば低解像度な実現である。
世界中が注目するスターの記者会見などは大量の複眼カメラによってリアルタイムで好きな視点から3Dで見ることができるようになり、好きなタイミングでキャプチャして3Dプリントできるようになるかもしれないし、ファッションはやがて完全なオートメーションで製造されるようになって、デザインはインターネット上の写真を元に、人の手さえ介さずにコピーされるようになるかもしれない。もし実際にそうなったとすると、そうなる頃には未来の洗練されたテクノロジーによって、それはシグナルノイズ比が極めて高い、つまり極めて高解像度な状態で実現されるだろう。

3DプリントアウトされたJustin Bieberは後頭部を持たず、まるで画像から浮き上がってきたように見え、非常に不気味である。A BATHING APEのパーカーの3Dモデルからポリゴンを減らしてパターンを引いたパーカーは、オリジナルとは似ても似つかない。しかしそれらはシグナルノイズ比が低い物質化であるからこそテクノロジー自体の「性質」を強く表現しており、かつ未来を想起させる程度には十分なリアリティを持ち合わせている。

 



[出展プロフィール]

ヌケメは、菅野芸術学院(通称カンガク)の服飾デザイン科に通う高校1年生。夢はデザイナーになって自分のブランドの店を持つことで、夢の実現のために頑張っている。同じマンションのお隣さん山口タカヒロとのHangoutsや、インターネットを取り巻くデータや物質・友人・知人たちの人間模様・恋模様、ものづくりへの情熱を描く。

菅野創

1984年生まれ。テクノロジーを用いたフィジカルな出力と、その出力におけるシグナルとノイズの関係性に注目し、それを顕在化し表現することを目的に制作活動を行う。2011年、yang02との共作《SENSELESS DRAWING BOT》が第15回文化庁メディア芸術祭アート部門にて新人賞を受賞し、その後ソウル、ボストン、モスクワ、神戸など国内外のフェスティバルに多数参加。

kanno.so

yang02

1984年生まれ。身体性を伴った文字表現や、公共性などを主なキーワードに、インスタレーションや映像、ウェブなど、フォーマットにとらわれず、デジタルメディアを基盤とした研究/制作活動を行う。2011年、菅野創との共作《SENSELESS DRAWING BOT》が第15回文化庁メディア芸術祭アート部門にて新人賞を受賞し、その後ソウル、ボストン、モスクワ、神戸など国内外のフェスティバルに多数参加。

yang02.org

ヌケメ

1986年生まれ。2008年より辺口芳典氏の作品提供を受け、「ヌケメ 」名義でブランド活動を開始。ミシンの作動データにグリッチを発生させる「グリッチ刺繍」が第16回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出される。同作品でARS ELECTRONICA FESTIVAL 2013に参加、展示とワークショップを行った。ファッションを軸に置きつつも幅広いフィールドで活動を行っている。

nukeme.nu


[主な作品]

kanno_yang02

So KANNO + yang02「SENSELESS DRAWING BOT」2012
kanno_nukeme
Nukeme, Tomofumi YOSHIDA, So KANNO and Emi YAMAMOTO「Knitting Machine Hack and Glitch Knit」2013