« mtrlzng II » | レーザーカッター茶屋再現実行委員/小沢剛研究室

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 [展示概要]

東京藝術大学美術学部先端芸術学科小沢剛研究室による研究室企画。

2011年に同研究室が行った「油絵茶屋再現」 – 明治7年、東京の浅草寺境内の見世物小屋で開かれた日本美術史上初の油絵の展覧会を現代に再現するというもの – 油絵は当時日本に輸入されて間もなかった最先端の”技術”であった。

本企画では、この「油絵茶屋再現」に見られるような、美術表現と先端技術の関係性に対する研究をさらに拡張して、「未来から見た現在」、レーザーカッターが美術表現の技術として扱われるようになって間もない現在の美術学生のあらゆる試みを、”100年後の小沢剛研究室”が仮想的に再現する。

 


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2014-08-01 60D 039.jpg2014-07-28 RX100 021.jpgレーザーカッター茶屋再現実行委員 『レーザーカッター茶屋再現』

小沢剛、浅古綾香、大木戸美緒、佐藤ともこ、長島瑠、長田雛子、三木麻郁、人見紗操、室井悠輔、三嶋一路
レーザー加工機協力:株式会社ヨコハマシステムズ

茶屋
監修:小沢剛  設計:戸石晃史  制作:戸石晃史、福泉義人、小沢剛研究室、先端芸術表現科
テント(2WAYトリコット)提供:ケーシーアイ・ワープニット株式会社、東レ・オペロンテックス株式会社

映像
小沢剛  制作:竹内均


name: 小沢剛 Tsuyoshi Ozawa (1965-?)
field: ???

20世紀末頃から、アジア地域を中心に、人と人との関係性や、美術制度などにフォーカスをあてた作品を作っていた。代表作に「ベジタブルウェポン」、「醤油画資料館」、「なすび画廊」などがあったが、近年それら以外のものも再発見されている。たとえば明治初期に日本で初めてといわれる油絵の展覧会を復元した「油絵茶屋再現」がある。今回紹介している「レーザーカッター茶屋」はその作品との関連性が深いとも言われている。

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name: 浅古綾香 Ayaka Asako (1990-20X?)
field: installation?

浅古は、己の身の回りに起きた事件をどれだけ面白く(主に笑いを伴って)人に伝えられるか、という研究に情熱を捧げていた。最近出土した彼女の日記には、夥しい数の笑いに関するメモや推敲の跡が残る文章が記されている。表現方法は一定していなかったが、特に言葉を重要視していたようだ。2015年1月の東京芸術大学修了作品展に出展したという記録が残っており、出展作品の発見が待たれる。

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name: 大木戸美緒 Mio Okido (1986-)
field: no comment.

千葉県松戸市在住の日本最高齢・鈴木美緒さん128歳(旧姓:大木戸)が当時先端芸術表現科の学生として参加。しかし鈴木さんにはマテリアライジング展についての記憶が全くなく、今回の再現展にも関わっていない。現在鈴木さんは第5世代の最新型レーザーカッターを所有し、愛用のセグウェイも型紙をダウンロードして自作されたそうだ。

本展ではご家族が保存されていた記録資料を頼りに再現された。おそらく当時の展覧会に参加した作家の中で唯一の生存者であり、多くの意味で貴重な一作品である。

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name: 佐藤ともこ Tomoko Sato (1990-消息不明)
field: installation / video / photography / performance

「私の制作は、メモリーとしての記憶の中や、 何かと何かとの間にある関係の中から、イメージを発掘する作業をしているようなものだ。」という文が発見されている。活動は多岐に渡り説明しづらい。

身体を意識した作品を多く残しているが、地方の元農家出身という彼女の出生に由縁があるとされている。

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name: 長島瑠 Ruri Nagashima (1990-?)
field: storytelling / installation

「“本”とはどういうものなのだろう。

そんなことを考えていた人は100年前にもいたんじゃないだろうか。

とあるデータベースによると、100年前はちょうど“本”と今は廃れてしまった電子書籍が同居していた時代らしい。

文字や言葉の在り方が変わっていく瞬間に立ち会っていた人。

(それが長島である。)

その人がもし、物語を書いていたら、美術を学んでいたら、こんなものを作るんじゃないかと、そんな風に思った。」

長島ならば、おそらくこんな文体で自身を紹介しただろう。

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name: 長田雛子 Hinako Osada (1991-20X?)
field: video art / mixed media

大学在学時の記録から、ドローイングとも呼べないような落書きやいたずら書きを多く残していたことが分かっている。それらの落書きを発想の糸口として映像や立体作品を制作していたようだ。連作はほとんどしておらず代表作もこれといって無いが、長田にとって彼女の作品は日常生活の中の余白にぽつんと描き込まれた落書きのようなものであったのではないか。そう指摘する専門家も多い。

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name: 三木麻郁 Maaya Miki (1987-20X?)
field: sound and visual art / installation

記号や言語を用いた作品を多く制作。記号言語による伝達の不確かさと、思考言語に寄せる個人のカルト的な信頼からイメージを広げる。カード式オルゴールを用いて日本語を音楽化するなど、彼女の制作スタイルにはしばしば「独自のルールに従って記号を別の状態に変換する」という傾向が見られる。2011年以降は数学の思考空間にも関心を抱いていたようだ。切り刻まれた数学読本やメモ的な数式のドローイングが残されている。

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name: 人見紗操 Saaya Hitomi (1987~20X?)
field: sound and video art / performance

他者との関係から齎される状況や体験を基盤とした、音や映像の作品を多数制作。鼻歌を収集するパフォーマンスを継続的に行い、集めた鼻歌から新たな歌を編み出す『Polyphony』や、居合わせた人々と紐で繋がりこんがらがり合いながら歌い踊る『I am Shooting Star, I am Milky Way』などがあった。本展では、人見が制作した「100年を超えるタームを巡る、予言に関する作品」を、100年ぶりに再現する。

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name: 室井悠輔 Yusuke Muroi (1990-20X?)
field: street art / installation

グラフィティ(街の落書き)から影響を受け、規制の中における自由をテーマに屋外で制作を始める。あらゆる権力に対して疑問を持ち、揶揄する姿勢を示す一方で、美術そのものに付きまとう権威や資本にも疑問を持ちながら制作していた。表現手法はゴミやディスカウントストアで手に入れてきたたもので手癖に頼って制作することが多い。また、ノイズミュージックやインターネットカルチャー、アールブリュットに関心を持っていた。

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name: 三嶋一路 Mishima Ichiro (1986-2048)
field: Photograph

当時の先端芸術表現科の学生として参加。本人のコメントが残っている。「画像を伸縮性のある布に出力し、中央に切れ目を入れる。出力は全てレーザーカッターで行う。布を四方からモーターで引っぱり、中央の裂け目を開閉する。写真に負荷がかかり生じた裂け目から、写真のイリュージョンに綻びが生じ、その物質感が露わになる。レーザーカッターは情報を物質に出力する際に、加算するのではなく減算する。これは光からネガを作る前時代の銀塩写真に相似している。」

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 [essay: 情報と物質とそのあいだ]

“新しいデバイスは次々と生まれては消えてゆく “

-小沢剛

新しいデバイスは次々と生まれては消えてゆく。その中で決定的なものは人類の共有財産として徹底的に様々な使われ方をして発展し歴史の中に定着してゆく。ところが産業のそのスピードと芸術のスピードは少々違う。芸術のスピードは鈍く、新しいデバイスが浸透しアートの重要な伴侶となるには面倒な時間経過—実践と多くの言葉—が必要かと思う。
2014年の現時点ではファインアート界では3Dプリンターやレーザーカッターは新参者であり、それらを中心に使って出来た作品でファインアートの世界に認められるレベルのものなど未だ現れていないといっても大げさではない。それどころかデジタルという形にならないものの存在を美術の歴史にどう接続してゆくべきかという言説も整っていない。
こんな状況に呆れる方も少なくはないと思う。でも、絶望することではない。実は今の私たちはスタートラインに立っているわけだ。2014年に生きている私たちが今後の歴史を作ってゆけることである。
マテリアライジングはまだ始まってもいない。

 



[出展プロフィール]

私たちレーザーカッター茶屋再現実行委員は2114年に組織された。今から100年前に上野に短期間存在した茶屋の再現に取り組んでいる。そこでは、レーザーカッターで作られたファインアート作品を専門に展示をしていたそうだ。それは世界で初めてだったそうだ。研究を始めてみると、手がかりになる文献は少なかった。その2014年当時の人々の生活や、社会状況、アートの状況をリサーチし、何を作っていたか推測している。最近の研究で、「小沢剛研究室」という大学内の研究室の活動として作られたことが分かった。制作に関わった当時の学生らのデーターも出てきつつあり、具体的な作品のイメージも分かりつつある。

時代の転換期に生きた若者達のみずみずしい感性がそこに見えてきた。

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[参照]油絵茶屋再現実行委員+小沢剛「油絵茶屋茶屋再現」2011
[参照]油絵茶屋再現実行委員+小沢剛「油絵茶屋茶屋再現」2011