« mtrlzng III » | 舘知宏

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(撮影:来田猛)

『Stiff and Flexible Material』

ふつうの板材は半波長の固有モードが最も柔軟であるのに対しStiff and Flexible Materialは全波長の固有モードが特異的に柔軟で,そのほかのモードに対しては約2桁高い剛性を持つ。S字の変形を容易に起こすが,C字の変形とその他の変形は起こさないため,変形可能方向でありながら単純支持されうる。剛体折紙機構をコアとすることで実現した硬くて柔らかいメタマテリアルである。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

 材料の柔らかさは力の大きさに対する変形の大きさで定義される。有限の大きさを持った材料への力のかけ方は無限次元存在し,変形の仕方も無限次元存在するので,本来はその組み合わせだけ柔らかさの定義が存在する。だから,「硬いか柔らかいか」を問うだけではなく,「いかに硬く,柔らかいか」を問うことができる。このような柔らかさの質を理解するのに便利な解析が固有値解析である。変形のモードと力のモードの組み合わせの中から最も柔らかい変形モードを順番に取り出していく。境界条件の無い構造体を固有値解析すると,6つの剛体変形モードの後,7,8,9と弾性変形のモードが柔らかい順に得られる。ところでこれらのモードに対応する固有値は固有振動数だから,可聴であるかはさておき音の高低を表す。一方,固有値の分布は材料の音色を表す。

 計算幾何学を使い,構造体を文字通りチューニングすると,音の高低=材料の硬さ,だけではなく,音色=いかに硬く柔らかいか,が設計可能である。折紙の幾何学とアルゴリズムを用いた構造物の研究の中で,7つ目のモードが特異的に柔らかく,8つ目のモードが非常に硬い立体形状が生まれた。これは純音を発するメタマテリアルである。この折紙材料は変形モード以外の動きができないため,硬くて軽量でありながら柔らかく展開・収納するという,空間構造物に求められる矛盾した要求を叶えることができる。

 



◉[III]出展者プロフィール

舘知宏
科学者/折紙作家。2005年東京大学建築学科卒業,2010年同大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。現在,東京大学大学院総合文化研究科助教。JSTさきがけ研究員。RGSS共同主催。
折紙の数理研究・計算に基づく設計手法の研究・システム開発を行う。2002年より三次元折紙を創作。2007年に未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)で任意の多面体形状を一枚の折紙から折るOrigamizerを開発し公開している
http://www.tsg.ne.jp/TT/


 

◉主な作品
III_tachi2[フリーフォーム・オリガミ]
折りで表面を覆い尽くすことにより、正・負のガウス曲率を持つ自由曲面形状を零ガウス曲率曲面=折紙で実現した。本手法は一般の曲面に拡張され得る。あらゆる曲面が板の折りと曲げのみで形作ることが可能である。
本作品は作者が開発するFreeform Origami システムの試験モデルとして製作された。Freeform Origami システムは、折紙の数理に基づき、製作可能な折紙形状の解空間をインタラクティブに探索可能とする。