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後藤一真+天野裕(Arup)

透明アクリル製の、スツールでもあり照明でもあるようなものを試作しました。使用した部材は短辺長さ1cm の、二等辺三角形断面の透明アクリル棒材で、座る人の荷重を支える構造材と、光源を屈折・反射して床を照らすための照明材を兼ねています。一本一本のアクリル棒は構造材としては柔らかすぎ、照明材としては小さすぎるものですが、これをある簡単なルールで沢山の本数を組み合わせることによって両者の機能を成り立たせたものとしました。また無数にある可能なアクリル棒の組合せのなかで、構造的な強度と、照明器具としての効果をより向上させたものとするために、構造解析・光環境解析によるシミュレーションと、多目的最適化の手法を取り入れた形態決定を行っています。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

“情報から物質へ、デザインからモノづくりへ、相補するエンジニアリング “

情報と物質。対比的とも捉えられるし相互補完関係にあるとも考えられるが、ここでは、“情報=デザイン”、“物質=情報に基づいて得られるオブジェクト”と捉えてみる。その際、我々エンジニアの位置づけについて考えてみると、“ 情報”に基づいて“物質”として現実のモノを実現すためにスタディを繰り返し、情報の精度を高める役割で、いわゆる情報を補完する役割なのだと思う。

我々が通常エンジニアリングを行う際のプロセスは、エンジニアの経験に従い”条件を満たすことの検証”を行い、その評価情報を基に、デザインにフィードバックさせる。条件を満足すれば検証をやめ、限定的かつ離散的な結果をフィードバックする。勿論、エンジニアは、よりよい方向となるように努力をするが、条件さえ満足していれば、どのタイミングで検証を終了するかはエンジニアの判断に基づいて決定されてしまう。しかし、デザインで創出される情報が流動的/ 連続的である以上、エンジニアリングで取り扱う情報もインタラクティブに追従してもおかしくない。さらには、エンジニアリングで取り扱う分野が学際的(Multi-disciplinary) な事象は、エンジニアの過去の主観的な経験のみに頼るのは難しく、連続的に帰納/ 演繹する仕組みがあっても何ら不思議ではない。今回の展示は、流動的にデザインが生成されるなかでインタラクティブにエンジニアリングが関与し、マテリアライズ(モノづくり)する ” ジオメトリックエンジニアリング” の試みの一つとして考える。簡単なルールで流動的に高度なジオメトリを生成すると同時に、目的に応じたエンジニアリングによって得られた“情報”を評価して、より目的に適した“物質”を実現する。

 


「情報と物質」というテーマについて散々考えた挙げ句、思い当たったのは随分前に読んだ老子の次のテクストでした。
”目を凝らしても見えないもの、それを微という。耳を澄ましても聞こえないもの、それを希という。撫でさすっても捉えられないもの、それを夷という。この三者は、突きつめることができない。だから混ぜ合わせて一にしておく。、、(中略)、、これを状(すがた)のない状(すがた)、物(かたち)のない象(かたち)といい、これを惚恍(こっこう)という。”(岩波文庫版 老子、日本語訳より)

この文章を大まかにまとめてしまうと、「世界は人にとって知覚できないモノで満ちている(ということを人は知っている)」ということだと思いますが、これを改めて読み返してみると、物質と情報と、そして人との関わり合いを端的に物語っていると思いました。

最近私が関わったプロジェクトでは、非常に細かい溝のある透明アクリル板の屈折効果により、冬でも明るい太陽光を室内に導入する、ということや、自由曲面の大きな屋根に1 万枚近くの金属板を、見分けがつかないくらいに均等な形で敷き詰める、ということに取り組んでいます。これらはともに、人からは殆ど知覚できないくらいの微妙なズレのようなものの積重なりですが、それでも確かにそこに関わる人にとって影響を与え、独特な何かを感じられる存在となっています。

こうした経験から、デザインやエンジニアリングの段階において、人にとって知覚できないくらい微妙な情報や関係性を組み込むことで、快適性・安全性・環境親和性などの性能を向上させ、かつ物質と情報と人との関わり合いを上手く保ったままのものができないか、ということに、コンピュータスクリプトによる形態生成の今後の可能性と興味を感じはじめています。

 



[略歴] (2013/06)

各々の専門エンジニアリング領域に従事する傍ら、ジオメトリックエンジニアとしてアラップの多領域的ソリューションと、複雑な建築形態との相互連携を担っている。

Arup:ロンドンに本社をもつ、国際的な総合エンジニアリング・コンサルティング会社。建築・土木関係をはじめ、さまざまな分野において技術的な設計やコンサルティング、およびプロジェクトマネジメント業務を行う。

後藤一真、構造エンジニア/ジオメトリックエンジニア
2006年 慶應義塾大学システムデザイン工学科卒業
2008年 慶應義塾大学開放環境科学専攻修了
2008年- Arup東京事務所在籍

天野裕、ファサードエンジニア/ジオメトリックエンジニア
2004年 東京大学工学部建築学科卒業
2009年 東京大学大学院新領域創成科学研究科社会環境学専攻修了, 2009年- Arup東京事務所在籍

http://www.arup.com/


[主な作品(エンジニアリング担当物件)]

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HOTO FUDO(建築設計:保坂猛建築都市設計事務所)
all images of HOTO FUDO © Koji Fujii / Nacasa & Partners Inc.

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自然体感展望台 六甲枝垂れ(建築設計:三分一博志/三分一博志建築設計事務所)