« mtrlzng III » | 木内俊克 + 砂山太一 + 永田康祐

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(撮影:来田猛)

『あの夕陽まで走って引き返してきました、あるいはムーンウォーク』

これらは、「イメージを支持する素材(=マテリアル)」と「それが表象する対象(=イメージ)」の関係性におけるいくつかのバリエーションである。
 この関係は、一般に説明されるような簡単な従属関係に収斂されるべきではない複数の位相を持っている。いかなる場合においても、「起きうること」は「予期されること」に対して常に過剰である。それゆえ、マテリアルが本当はどのようなしかたで対象を指し示しているのかは、根源的なレベルで私たちには把握することができない。さらに言えば、それが何かを指し示しているのか、それともしていないのかさえ判断することはできないのである。
 私たちはこうしたマテリアルとイメージのあいだに横たわる不気味さ、そしてその計り知れなさについて魅了されるところがある。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

このエッセイでは、物質と情報について手短に定義を提示しながら、その帰結として見い出しうる「そのあいだ」について考えてみようと思う。

 まず、情報と物質という2つの概念について簡便に述べるならば、これら2つは別のものではないというところを起点にしなければならない。なぜなら、情報は物質によって引き起こされる効果のようなものであるからして、これら2つは分離不可能なものだからである。つまり、情報は物質が特定の表れ方をすることによって、知覚主体にとってそれがそれ自体ではない別の何かとして認識されるという一連のプロセスのなかに発生するものだということである。例えば、紙にペンでパンの絵を描いたとき、そこに現れるものは明らかにパンではないにも関わらず、私たちにとってそれはパンのように思われる。この時、私たちが知覚したパンのイメージが情報であり、それを把持する物質が紙でありインクであるといえる。

 しかし、ここまで考えたところで、そもそも情報から切り離された物質というものについて考えることは可能なのか、という疑問が湧き上がる。つまり、物質もある種の効果に過ぎないのではないかという疑念である。例えば、 私たちがコップを認識するとき、そこには必ずそれが飲料を保持するための器具であるという、それ自身に関する情報が付随してくる。つまり、私たちが物質だと思っているものも、同様にそれ自身についての指示主体を内包しているのだということである。このことから、物質も情報のある特殊な一形式であるということ、つまり物質とはそれ自体にとって自己言及的な情報のことである、といえるかもしれない。

 以上のことを前提するならば、私たちが元来物質だと思っていたもの、意味を持たず、同時に何物にでも成り得るようなそれ、は果たしてどこに定位するのだろう。この問に対して、情報でも物質でもない「そのあいだ」は、そこへのひとつの道筋を提示してくれるように思われる。情報がその対象以外の何かによって指し示されたものであり、また物質が自身に帰属する何物かによって指示されたものであるとしたとき、「そのあいだ」に横たわるものは、何も指し示さない無意味なもの、もしくは様々な場所を指し示す多義的なものとなるだろう。つまり「そのあいだ」とは、何物かを指示しようとしていながらそれ自体がそうあることを否定しようとするような、もしくは自身のことを言及しているようでいて同時にずれを孕んでいるような、そういった存在であるといえる。このことからわかるのは、情報対物質という関係性の中間項として位置していた「そのあいだ」が、両者の安易な差異化から離れることによって、その関係性を越えたものとして立ち現れるということである。このとき、「そのあいだ」は、私たちには到達することのできない未知でありながら、同時にそこへの漸近を駆動させるひとつの可能性となるのである。

 



◉[III]出展者プロフィール

木内俊克
1978年東京都生。木内俊克建築計画事務所主宰。東京大学大学院学術支援専門職員。東京大学大学院修了後、Diller Scofidio + Renfro、R&Sie(n) Architects勤務を経て現職。
http://www.toshikatsukiuchi.com/

砂山太一
1980年京都府生。京都市立芸術大学特任講師。東京芸術大学大学院博士後期課程在籍。ESA(パリ)修了後、JAKOB + MACFARLANE 勤務を経て現職。
http://tsnym.nu/
http://ghe.jp/

永田康祐
1990年愛知県生。東京芸術大学非常勤講師。東京大学大学院学術支援専門職員。東京芸術大学大学院修了後、現職。
http://knagata.org/
http://ghe.jp/

 


 

◉主な作品
img_3804-1024x682[double bed]
無意味な事態の連鎖が、知覚可能な形式を出現させる瞬間を捉えること。
データ相互の形式的な可換性のみにより、複数のシステムを一つの構造体の中で並置すること。

――空気膜マットレスのフレームへの縛り付け、「しわ」形状のシミュレーション、分析、幾何学情報の置換、フェルト塊ボリューム、FRPワッフル、マットレスへの差し戻し、縛り付け、マットレス内圧の導入、並置された事物、動的均衡