© kwwek// 木内俊克 + 砂山太一
材料協賛・技術協力: 株式会社ポリシス
構造協力:佐藤淳構造設計事務所
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水と同等の比重1.00 を持ち、156%の引張伸び変形を許容する超軟質の透明ポリウレタン樹脂の塊り。2.0m X 0.3m X 0.12m、72L。このボリュームの33%、23.76L を置き換える骨材として、軽く一定以上の硬度の不純物を混ぜ、かつ長手方向に貫通させたポストテンションケーブルにより内部応力を与えて変形を引き起こす。骨材をより多く混ぜれば樹脂塊は硬さを増し、比重は軽くなる。骨材の分布パターンの粗密により、局所的に硬く変形しづらくなった樹脂塊は、体内に不均一な機械特性の分布を獲得する。ポストテンションにかけられる引張りを追随して、樹脂塊の体内には不均一な内部応力が発生し、均衡を求めて樹脂塊は絶えず変形を繰り返す。引張り力の蓄積を記憶するように、常に残存し続ける塑性・クリープひずみにより、樹脂塊は二度と同じ形状に戻ることはない。その全てをデザインしたいと考えた。
かたちとは曖昧なものだ。
どんな物質のかたちも、時間の中で常に変化し続ける。
かたちは不安定であり、はかない。
その不安定さの中に潜む、微細な声を、繊細な風景をかき消さないように。
時間が紡ぎ出す緻密なゆらぎを塗りつぶしてしまわないように。
曖昧さを、微細さを、緻密さを、そのままそのものとして受け止める。
ものがそこにあり、あり続け、同時にそのものでなくなっていくこと。
その現象にアプローチし、現象を現象としてそのまま成立させることをデザインの行為として考えたい。
デザインにおけるコンピュテーションは、それを可能にしつつある。2012 年10 月に新宿パークタワーリビングデザインセンターOZONE で行ったkwwek の個展(『Amorphous Form』)では、古材の足場板と、ラワン合板の両面に土木用フェルトを貼り込んだ部材を互いにルーズなジョイントでつなぎ合わせ、部材同士の関係性のみを規定し、全体形は部材を組み上げるときの偶然により決定されていく「壊れた棚」をデザインした。部材ごとの形状も、足場板は古材そのものの形を用い、土木用フェルトは制作を手伝ってくれた学生がはさみでランダムに切り出したもので、ルーズさを担保するジョイントになる各部材4 箇所の切り欠きと、切り欠き間の位置関係のみしか厳密には定義していない。
今回の『PU』では、その考え方をさらに展開させた。156%の引張伸びを許容し、わずかな応力で変形する超軟質の透明ポリウレタン樹脂の塊りに、不純物を混ぜた状態でポストテンションケーブルにより内部応力を発生させ、均衡を求めて樹脂塊が絶えず変形する構造体を設計した。導入された圧縮の蓄積を記憶するように、常に残存し続ける塑性・クリープひずみにより、樹脂塊は二度と同じ形状に戻ることはない。ここでも厳密な意味での形状のデザインは行っておらず、制作条件から樹脂塊のボリュームを算定し、その中の不純物の分布状態を規定することのみにより、樹脂の挙動を一定の範囲にとどめ構造体として成立させるアプローチをとっている。
あえて「情報」と「物質」という言葉に置き換えれば、時間軸の中にある「物質」に潜在的に含まれる固有な「情報」を知覚可能なものとして引き出す為、かたちを定義するのではなく、そこにある「物質」の関係性や分布といった、「物質」の間にこそある「情報」を定義することがkwwek の関心の中核といえる。
自由律俳句の俳人、尾崎放哉の句に次のようなものがある。
月夜の葦が折れとる (「層雲」大正15 年4 月号発表)
ここで尾崎が詠っているものは、月夜でもなく、葦でもなく、それが折れていたことのみでもなく、その三者と尾崎という人物がそこに存在したごくはかない関係性が、尾崎という人物を介して知覚されたという稀有な現象の全体性そのものでしかないだろう。
デザインにおけるコンピュテーションにおいて、そうした豊かさをこそ問題にしたいと考えている。
2011年に木内俊克、砂山太一が共同設立したデジタルデザイン研究プラットフォーム。普段の暮らしの中で何気なく感じている空間を、より「ありのまま」に記述し、データ化する方法を試行錯誤している。
木内俊克
木内俊克建築計画事務所主宰, 東京大学工学部非常勤講師, 日本女子大学非常勤講師, 東京大学工学系研究科建築学専攻Global30コースアシスタント
砂山太一
gh/e共同主宰, 東京芸術大学院構造計画研究室(博士後期課程在籍), 東京大学工学部非常勤講師
展覧会「Amorphous Form」 (かたちにならないかたち)
新宿パークタワーリビングデザインセンターOZONEギャラリー、東京、2012 © kwwek// 木内俊克 + 砂山太一
協賛:アプリクラフト、アルテアエンジニアリング、総合資格学院