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三木優彰 『Super Tensegrities』

コンピュータを用いてデザイン・制作したテンセグリティ構造の模型(真鍮パイプφ5、テグス16 号)と、コンピュータを用いて生成した張力膜構造(ケルンのダンス場/ フライ・オットー)の形態バリエーションスタディ(3D プリント)を出品させていただきました。あわせて力学を考慮したコンピュテーションの様子を映像作品にまとめました。

テンセグリティ構造の発案者といわれているケネス・スネルソンは、一切コンピュータを用いずに複雑で有機的なテンセグリティ作品を多数制作し、自身を彫刻家と呼んでいます。軽快なケーブルネットや張力膜で知られるフライ・オットーは、それらの形態デザインにコンピュータを用いませんでした。これらの、もはや古典といってもよい張力構造という名のフィールドで、コンピュータの利用による現代的なデザインのプロセスを提案しています。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

 

いかなる概念も存在しない状態から始めよう。それはつまりなにも「ない」ということなのだろうか?「ない」とはどういう状態なのだろう?「ない」とは「ある」の反対である。どうやら、いかなる概念も存在できない状態を想像することは我々には幾分困難な作業のようである。では、「ある」とはどういう状態なのだろうか?ここで1つのルールを導入しよう。同じ場所に2つ以上の物質が同時に「ある」ことはできない、というルールである。このようにして「ある」と「ない」の物語に突如「空間 時間 物質」が登場する。このルールにより我々はそこに何かが現実に存在するのかどうか確かめることができる。このルールに厳密に従うものを我々は物質と呼んでいる。このルールにより我々は「ある」、とはどういう状態なのか知ることができる。このルールがなければ我々は原理的に「ある」と「ない」を区別することができないから、このルールが存在しない世界は我々にとって何ら意味を成さない。

今、我々の目の前に2つの物体がある。その2つの物体が互いに接近しついには重なりあってしまったら、我々はその2つの物体が現実には存在しないのであり、それはただの情報が投影されているだけなのだと判断するだろう。2つの物体が正に衝突しようとするその瞬間、何かが-例えば反発や吸着が-生じれば、我々はそこに現実に物質が存在すると判断するだろう。しかしまだ、それらが現実に存在するのかどうか確証を得ることはできない。
ここで我々が過剰に視覚に頼っていることに気がつく。そこで我々から視覚を奪ってしまおう。すると我々は最初身動きがとれなくなり、少しの時間が経過したのち、身体や身体の一部を連続的に動かしながら、物質の「ある」場所と「ない」場所を探索し始めるだろう。ここで戯れに、我々に瞬間移動を許してみよう。途端に「空間 時間 物質」が不安定で曖昧なものとなり、どこかへ霧散してしまった!そう、瞬間移動をしない、それがすべての物質が従う2番目のルールである。

コンピュータを用いて生成した複雑なデータを物質化しようとしたとき、我々は必然的にこの2つのルールと向き合うこととなる。すでに他の物質が「ある」場所に他の物質を配置することはできないし、たとえその場所に他の物質が「ない」ことが明らかであっても、その場所まで連続的に輸送する軌道が存在しなければそこに新たな物質を配置することはできないのだ。

 



[略歴] (2013/06)

2012年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
科学技術振興機構/Erato 五十嵐デザインインターフェースプロジェクト研究員
英国バース大学客員研究員
東京大学情報理工系研究科特任研究員(現在)
既存の枠に囚われない柔軟な発想で、建築におけるテンセグリティ構造を応用したシステムを、独自のプログラムを用いて研究/実践している。

http://mikity.wikidot.com/


[主な作品]

Computational Mechanics

力学の基本原理と計算機の親和性に着目した映像作品