« mtrlzng I » | Source Organization Network (So Sugita + Hiromitsu Konishi) | 杉田宗 + 小西啓睦

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Source Organization Network 『Equilibrium Shelf』

家具設計協力・制作:高橋雄二(さしものかぐたかはし)

1978 年大分生まれ 専門学校飛騨国際工芸学園卒業後、宮崎県指物工房矢澤、京都府木工佃と渡り歩く。2010 年より妻の郷土、広島県にて「さしものかぐ たかはしを」を開始。

岡山市内に計画中のベーカリー「aozora」に設置する陳列棚のモックアップである。グラフ描画アルゴリズムを基に、力学モデルを用いたネットワークシステムを使って設計を進めている。ベーカリーは商品の種類や陳列の時間帯など、流動的に変化する要素が多い。接客の中心となるこの陳列棚は、そういった変化に対応する為、様々な状況のシュミレーションを行い、その中にある平衝状態を割り出している。それぞれのモジュールが自然に集まりながら空間を定義していくプロセスにより、これまでに捉え切れなかった「埋もれた情報」をもデザインに取り込もうと試みている。また、店の拡張や移動販売を考慮し、家具による空間の可変性にも注目している。日本の伝統的な手仕事、指物を使う事により本来日本の家具が持っていた家具の可変性を拡張させ、「ゆるい物質」で構成された空間を実現している。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

 

設計に携わる者として、今回は建物を「物質」、そしてそれを取り巻く様々な情報を「情報」として論考していこうと思う。
SourceOrganizationNetwork は2010 年に建築やインテリアの分野で生まれる新しい価値や方法論の考察を目的に立ち上げた。同時に、デザインや設計を行う上で、身の回りに溢れる情報をどの様に整理し、活用することで、仕事を進める新しい組織ができないかと模索してきた。事実、我々は別々の事務所に属し、別々の仕事に取り組みながら、SourceOrganizationNetwork を情報共有の為のゆるい組織と位置づけ活動してきた。そこには、我々が考える設計プロセスで、「情報」の組織化が重要視されていることが大きく関わっている。

設計行為の大半は情報の組織化であると考えている。クライアントからの要件や敷地の制限など、様々な条件を読み取りながら、建物という「物質」をつくるための「情報」をまとめ、そこから生まれる物質のあり方を導きだしていくのが、設計に携わる建築家や設計事務所の役割だ。悲しいことに、物質へのただならぬ憧れを持ちながらも、直接物質に触れる機会は少なく、いくら現場で走り回ったとしても、建物を完成できるわけではない。我々はそれだけ大きな「物質」を扱っている。だからこそ、これまで以上に様々な「情報」に向き合い、「情報」を組み合わせながら、建築の考察をする必要がある。

話はそれるが、杉田が勤める( 株) 杉田三郎建築設計事務所は戦後直後の広島でスタートした設計事務所である。広島の復興と共に様々な設計に関わり、広島の街の再建に少なからず貢献してきたが、日本中にある数千の小規模設計事務所と同様、新しい業務の領域を模索しながら、厳しい時代を過ごしている。しかし、長年の設計の蓄積で事務所内には膨大な「情報」が眠っている。築40 年を超え、取り壊されてしまった建物の情報も、建てられた時と同じ状態で残っている。このような膨大な蓄積の中に埋もれている固有の「情報」を見つけ出すことで、新しい価値を見出すことができるのではないか。弊社の様な事務所が、蓄積された「情報」と共に新たな「物質」に向っていくポテンシャルは高いと考えている。

データのデジタル化が進み、「情報」に時間の概念がなくなりつつある。また、設計プロセスにコンピュテーションを組み込むことにより、これまでは捉え切れなかった「情報」や関係性にも目を向けることが可能になってきた。どの様な「情報」をどのような質で扱っていくかが、「物質」に落とし込んでいく上で、非常に重要になってきている。その上で、既存の形式にとらわれないダイナミックな組織によって、デザインや設計に取り組む必要があると考えている。ゆるい組織が「情報」と「物質」の間に立ち、新しい価値や方法論を作り出す環境にこれからの可能性を感じている。

 



[略歴] (2013/06)

Source Organization Networkは建築やインテリアの分野で新しく生まれる方法論や価値の発見を目的に生まれたデザインリサーチユニット。刻一刻と変化し続けるダイナミックな世界のためにそれぞれの専門知識や技術をリンクさせて組織化を進めている。杉田宗(杉田三郎建築設計事務所、広島)と小西啓睦(miso 、京都)により現在、国内外でいくつかのプロジェクトが進行中。
杉田宗
1979年広島生まれ。パーソンズニュースクールオブデザインでインテリアデザイン科を卒業後、米国や中国の設計事務所に勤務。2010年ペンシルバニア大学大学院建築学科で修士課程を修了後、㈱杉田三郎建築設計事務所入社。同時にデザインリサーチユニットSourceOrganizationNetworkを立ち上げる。2012年より、東京大学Global30国際都市建築デザインコースアシスタント。
http://www.sourceorganizationnetwork.com/


 [主な作品]

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「gathering」
パビリオン,ニューヨーク,2010
gatheringは2010年にニューヨークのユニオンスクエアに空想集落の一部として建てられたパビリオン。マルチ エージェントシステムを用いた非線形デザインプロセスで、ユダヤ教の休日であるSukkotのための仮設空間を都市の中にデザインした。何千年も続く、製作に関わる厳格なルールに基づきながら、形成プロセスの中で部材となるスティックが群集として動きながら開口や内部空間をつくり、不規則性を持ちながらも新しい秩序を表現している。