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elasticresearch (隈太一 武井祥平)『肌理とかたさ』

協力者: 岡本原太朗 (フレーム制作) / 木村雄人(布加工) /野村浩気(機構制御)

うすい布と硬化剤(樹脂)をつかい、やわらかく、しなやかな布をコンピュータによって生成されたパターンによって硬化する。パターンは、その粗密の違いによって、異なる「かたさ」をつくりだす。布は逆さ吊りにされ、三次元的な曲面をつくり、それに対し、CNCの二軸アームによって硬化剤が特定のアルゴリズムで生成されたパターンでプロットされていく。逆さ吊りの状態に、一様に硬化剤を塗布してかためた形態を基準とし、それに対し、パターンが密度の差を持つことで、どれだけ形態が重力によって変化し、また、実際にさわった時のかたちの「やわらかさ」に違いがあるのかを展示する。パターンによってつくりだされた肌理が、形態とかたさをコントロールする。
建築において、人のアクティビティに応じて求められる、様々な「かたさ」の違いを、布と硬化剤の組み合わせ方のグラデーションによってつくりだすという、新しいデザイン手法の提案である。従来の建築のデザインプロセスとは違い、建築家に求められるアクティビティの空間化というプロセスを、かたちに直接変換することではなく、マテリアルの特性、パフォーマンス、組み合わせから、人の多様なアクティビティを生み出すことで、高い解像度で空間をデザインできると考える。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

“建築における「やわらかさ」と「かたさ」”

建築をいかにやわらかくつくれないかというのが、ぼんやりとこのプロジェクトが始めるにあたって考えていたことである。

現状の建築(仮設のものを除いて)は、かたく丈夫な建築をつくったところに、比較的やわらかい、家具やベッド、いす、カーテンなどを付加していくことで建築を建築として成立させている。その二つの分断したプロセスをどうにかひとつの連続したプロセスにできないかと考えた。建築を完全にやわらくすることは難しくても、やわらかさを残すことは可能ではないのか

Gottfried Semper (1803-1879)は「建物芸術の四要素(Die vier Elemente der Baukunst)」の中で、建築の主要素を、「炉」、「基礎」、「枠組み/屋根」と並んで、「囲いの被膜」を定義している。また、彼は最初の基本的な構造物は紐の結び目であり、そこから遊牧民の主要なテント文化とその織物文化が派生したと主張する。つまり、建築とはその起源から、布を始めとする被膜といったやわらかい要素を持っていると言える。そして、その重要性として、以下の二つの点に触れている。一つ目は原始社会における場所・創造の作用として、二つ目は、永遠の現在社会を循環的に更新するものとしてである。これは、いまの建築においても通じる考え方であると思う。もちろん、現代において、場所や創造の種類は多様化しているが、布や織物によってつくられる空間の質や、「結び目」をつくっていく創造の方法は今も昔も不変のものであるように思う。また、更新性ということに関しては、建築はまだまだ「やわらかな」要素を持つことで、時間方向にも大きく変化していけるのではないか。

建築における布や紐などの使用は、膜構造やカーテンなどの家具要素だけでなく、デザインのための実験でも多く使われてきた。これは、かたちを探すための手法として、構造的に合理性のある形態(圧縮のみにより成立する構造)を導くだけでなく、実験のプロセスの中でやわらかさをつかって、想像をこえたダイナミックな形態を作り出すという意味がある。その起源は、Giovanni Poleni (1683-1761)がロンドンのSt Paul’s Cathedralのドームを設計した際に、鉄製のチェーンを垂らし、形態を決めたことにあるとされる。また、有名な例では、それを三次元的な糸と砂袋を使った実験により、サグラダ・ファミリアなどの傾いた柱やヴォールトの設計をしたAntoni Gaudi (1852-1926)などの存在も忘れられない。そして、チェーンや糸を布という素材に置き換え、それを水に濡らし凍らせることによって固め、多くのシェル構造の実験をしたHeinz Isler (1926-2009)もこの分野で大きな貢献をしている。もちろん、現在もなお活躍するドイツの建築家、構造家Frei Otto(1925-)は、Form Findingとして、糸や布にとらわれず、膜やケーブルネットをつかった実験により、ミュンヘンのOlympic StadiumやマンハイムのMultihalleなど数多くの三次元的に複雑な幾何学をもった建築を設計した。

また、生物の構造などに見られる肌理は、それによって一つの構造体の中の様々な機能によって求められる、「かたさ」の違いをつくり出している。今回、私たちは、逆さ吊りの布から形態を導く、建築デザインの実験を発展させ、コンピュータによる解析と制御で、布を「部分的に」硬化させることで、生物の肌理のように、ひとつの建築の中に、「やわらかさ」と「かたさ」を同時に提案できないかと考えた。これは、建築において、人のアクティビティに応じて求められる多様な「やわらかさ」と、建築が構造物として成立するための「かたさ」を布と硬化剤という組み合わせ方のグラデーションによってつくりだすという方法ともいえる。

 



[出展プロフィール]

elasticreserachでは、部分と全体のダイナミックな関係性をもつelastic (伸縮性[弾力]のある;しなやかな;物理学弾性(体)の) 素材の可能性を、建築のデザイン、ファブリケーションにどのように応用できるかということの研究を目的とする。elastic素材は、その構造や施工における特徴把握の難しさ、制約の多さから、建築においては未だ一般的な存在ではない。わたしたちは、実験による素材分析、コンピュータによる解析/シミュレーション/アクチュエーションという、PhysicalとComputationalなプロセスから得られた情報をフィードバックさせることで、素材に固有の形態やパフォーマンスを見出す手法を模索している。それによって、従来の建築のデザイン、ファブリケーションからでは難しい、必要最低限の「かたさ」をもった建築をつくることが可能となると考える。また、素材がelasticであることで、部分と全体の連続性があるだけでなく、時間によって変化しつづける建築の実現もわたしたちの研究のテーマである。


[主な作品]

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隈太一、武井祥平、友枝遥、Anna Braverman「ori -変化する光のかたち-」2011