« mtrlzng II » | 櫻井稔、加藤大直/Genkei、杉本雅明、東京藝術大学デザイン科企画理論研究室(藤崎圭一郎、佐々木崇人)

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2014-07-25 60D 046.jpg2014-08-01 60D 104.jpg2014-08-01 60D 103.jpg櫻井稔 加藤大直 杉本雅明 東京藝術大学デザイン科企画理論研究室(藤崎圭一郎 佐々木崇人) 『BigData Materialization』

協賛:株式会社コプレック
3Dプリンター制作協力:佐々木隆太(APISTEC) 藝大デザイン科学部生院生有志

本作品は、1日1時間ごとの気象データを壺状の物体に変換し、それを高さ4mの熱溶融積層法(FDM/FFF)としては世界最大級のデルタ型3Dプリンター[※]で会場内にて出力する。気象庁が公開している東京の気象データを使い、任意の1日の気温、湿度、気圧、風速・風向きで壺の形状を決定する。1時間ごとの気温が直径、湿度が樹脂の厚み、気圧が高さとなり、風速・風向きで形状を歪ませる。1日の変化の壺だけでなく、1年間データによる壺も出力する予定する。壺のサイズは高さ約1~2m。データが人体のサイズに近い物体になることで、それが人との距離を縮めるか否かを探る実験でもある。(※デルタ型とは三軸の支柱で射出ロッドを制御する方式)。
同時に、Genkeiの卓上型の3DプリンターTRINOを3台用意して、来場者に誕生日など自分の好きな日を選んでもらい、その日の気象データをもとに生成した手のひらサイズの壺を出力する。
データ物質化プログラム作成は、櫻井稔が担当。櫻井は、既成のアプリケーションに頼ることなく、クリエイティブツールをゼロベースから独自にプログラムすることで、デザインとエンジニアリングをつなぐ創造性の意味を問いつづけており、昨年度東京藝術大学で博士号を取得、現在takram design engineeringと電通コミュニケーション・デザイン・センターにて仕事を行っている。
3Dプリンター設計は、加藤大直が担当。加藤は国内初の完全オリジナル家庭用3Dプリンター「atom」を発表して注目を集めているGenkeiおよびRepRap Community Japan共同設立者。全高4m巨大プリンターは本展のために設計したものである。
企画にあたっては上記2名に加え、東京藝術大学デザイン科企画理論研究室の藤崎圭一郎と佐々木崇人と、Lab-Cafe、AgIC株式会社の共同創業者杉本雅明が参加。企画理論研究室は制作進行も担当した。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

– 櫻井稔、加藤大直/Genkei、杉本雅明、東京藝術大学デザイン科企画理論研究室(藤崎圭一郎、佐々木崇人)

BigData Materializationは「触れるビッグデータ」の実現をめざすものである。ビッグデータの可視化は現在さまざまな試みが行われているが、物質化まで試みた先例は少ないと考える。気象データを、人がハグできるほどのスケールに物質化することによって、0と1のビットの世界のさらなる直感的把握を促す試みである。
なぜ壺の形にしたのか。私たちは壺を人間の感覚の集中する場の象徴と考えるからである。飲み物をのむときに、コップが触れる唇、指、手のひらは人間の最も繊細な感覚器官が集中している。しかも人はコップを目で見て、鼻で中身の匂いをかぎ、舌で味を確かめる。壺の形とは、物質化されたデータを感じる行為のメタファーなのである。
本作では、気温、湿度、気圧、風速・風向きが美的に整った形として物質化されるように、櫻井稔がC++で書いた独自のプログラムを開発した。しかし、触れるビッグデータに不気味の谷みたいなものがあるかもしれない。壺として整った形体としてビッグデータが現出するとき、美しく見せる努力が逆に得体の知れなさを増す要因になるかもしれないのだ。もちろん壺という形体が、触れること・握ることをアフォードし、親しみやすさが増すこともあるだろう。巨大プリンターによって身体化されたビッグデータは、人間にとってさらに不気味な存在となるか、はたまた私たちの親しみやすいパートナーとなるか。作者たちは本作がその両義性をあわせもつ存在になることを願っている。

 



[出展プロフィール]

本チームは、プログラムを櫻井稔、3Dプリンター制作を加藤大直、制作進行担当を東京藝術大学デザイン科企画理論研究室(藤崎圭一郎+佐々木崇人)、企画協力を杉本雅明が行っている。作品構想は、メンバー5人の合議の中から生まれ、実制作は櫻井と加藤が担当している。櫻井稔は、2014年東京藝術大学美術研究科デザイン専攻博士後期課程修了、現在takram design engineeringおよび電通Communication Design Centerに所属し、ビッグデータを活用したデータビジュアライゼーションを手がけている。加藤大直は、国内初の完全オリジナル家庭用3Dプリンター「atom」を始めとし、次世代ツールを開発提供しているGenkei共同代表。藤崎圭一郎は編集者+デザインジャーナリストで藝大デザイン科准教授。佐々木崇人は藤崎研究室修士1年。杉本雅明は、2008年よりコミュニティーカフェLab-Cafeを設立・運営し、イノベーションが継続的に生む環境構築の方法論の開発を模索している。慶應義塾大学SDM研究科博士後期課程在籍中。

genkei.jp

design.geidai.ac.jp/lab_pt.html

櫻井 稔

1982年生まれ、デザインから考えるコンピュータ環境の研究、作品の製作を行っている。2007年独立行政法人情報処理推進機構(IPA)未踏ソフトウェア創造事業においてスーパークリエイタ認定を受ける。日本科学未来館、地球マテリアルブックがグッドデサイン賞など受賞多数。東京藝術大学美術研究科デザイン専攻博士後期課程を卒業後、takram design engineering及び電通Communication Design Centerに所属しビッグデータを活用したデータヴィジュアライゼーション分野で活動している。

加藤大直

1984年生まれ。ニューヨーク在住当初より進めていた個人用3Dプリンターの開発を2011年末に日本へ持ち帰る。 Genkeiを共同創業後、国内初の組立てられる3Dプリンターatom発売や、組立てワークショップを全国開催し日本における個人用3Dプリンター導入先駆となる。 2013年MIT Business Plan Contestファイナリスト。 2009年New York Parsons美術大学BFA卒、Mckay Architecture/Design、Berm Design NYに従事。 現Genkei共同代表を務めリアルとデジタルを合わせる可能性を研究している。

杉本雅明

1985年生まれ、イノベーションが生まれ続ける環境構築の方法論を模索すべく研究をかねて実践中。コミュニティーカフェLab-Cafeを設立・運営。ユーザーと共に、インタラクティブなビリヤード台をつくるOpenPoolという企画を開始、2013年にグッドデザイン賞受賞。OpenPoolのスピンアウトでペンやプリンタで回路が作れる銀ナノインクのベンチャーAgICを共同創業。2012年東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻修士卒。慶應義塾大学SDM研究科博士後期課程在籍中。

佐々木崇人

1989年生まれ。2014年東京藝術大学美術学部デザイン科卒、同大学大学院美術研究科デザイン専攻入学。企画理論研究室に在籍しながら、デジタル領域の拡大によるデザインの変化やその影響の研究、近年登場したメディアの研究と新たに登場しうる次代のメディアの模索、多種多様なデジタル機器と既存のアナログデバイスや表現を複合的に活用した創作の実践などの活動をしている。

藤崎圭一郎

デザインジャーナリスト。エディター。1963年生まれ。1990〜92年『デザインの現場』編集長を務める。1993年より独立。雑誌や新聞にデザイン、建築に関する記事を執筆。東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。ライフワークは「デザインを言葉でいかに表現するか」「メディアプロトタイピング」「創造的覚醒」著書に広告デザイン会社DRAFTの活動をまとめた『デザインするな』


[主な作品]

sakurai
 

櫻井稔「AirStroke」2013