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慶應義塾大学 池田靖史研究室 『殻状多胞質様態』

設計・制作:池田靖史研究室

多面体空間(ボロノイ・セル)の集合体を、「情報空間」上から「実空間」に実体化するためのシステムと、それによって生成される物体。それが我々の提案する「殻状多胞質様態」である。

本提案は、「デジタル技術による材の加工」と 「情報技術を応用した設計手法」を用いて、PC上での点群の操作から、人間による組み立ての行程までを、横断的に可能にする型として提案を行うことで、形態のコントロールと共に、実空間へのマテリアライズが容易に行える仕組みになっている。
また、今までボロノイ・セル群の実態化で一般的だった、線材を接合していく軸組み的工法や平面を積み重ねるコンタ積層造形法ではなく、「面材」と「ジョイント」といった、実空間での空間構築により近い手法を用いることで、建築空間への展開を視座として取り入れている。

このように、「殻状多胞質様態」がもつデザインの自由度、原理モデルとしての汎用性、シンプルな工法は、従来の直交グリッドを用いた空間の構築手法に変わる、新たな価値をもつのではないかと考えている。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

“殻状多胞質様態”

– 慶應義塾大学 池田靖史研究室

マテリアライジング(物質化)という概念には、逆説的に物質化するための対象である非物質としての「情報」が必要である。この二つは対にならないと意味をなさない。物質だけの世界では、物質化という概念は成立しない。すると、物質化される情報のほうが持つ性質こそが問題なのであって、ある情報のもつ本質的な特徴を視覚的に形式化する手段だけかというと、決してそうでもない。確かにグラフやダイアグラムのように情報に内在する性質を概念として視覚化する事は人間の思考過程において重要である。その一方で視覚化されたものは必然的に観察され再解釈されて同じくらい重要な思考過程「概念化」を引き起こす。視覚化と概念化は無限に繰り返される思考過程のループであって、そこに膨大な数の計算を厭わずに繰り返す計算機的な能力が介在する事で、人間は思考力そのものをパワーアップできる。しかしながら物質化は単なる視覚化ではない。ここまで述べて来た視覚を通じた思考過程強化法はコンピューターとディスプレイモニターの中だけで十分すぎるほど展開できる。視覚化されたものを物質に置き換える手法としての3次元プリンターの登場が、我々にマテリアライジングを自覚させたのは、概念から視覚的実体までの距離が一気に縮む事で起きる思考過程への影響ではあるが、その本質は立体から二次元平面の積層へのデータ変換によって立体データをプリンタヘッドの動きという実体化手段にできるプロトコルの技術のほうにあると思う。3次元と言いながら実際には重力によって規定された「2.5次元」的な空間と概念持つ我々にとって、非常に高い一般性と理解のしやすさがある方法だが、建築や都市を作れるような方法論への発展を考えると、これとは別に、部品とその組立法によって合理性を追求する技術にこそ、その展開がある。つまり、「積層化」という手段がデータと実体の間をつなぐプロトコルとなっているのと同じような一般性と合理性を部品とその組立方法にとっても追求できる「物質化」の技術に対する関心が我々の展示の主題である。
したがって物質化される元の情報そのものは多様なものを想定すべきである。
我々が選んだのは「セル(細胞)化」と呼ぶべきものである。3次元的な点群によって制御されているボロノイ・セル群は、立体的位置関係という「概念」を計算機的な能力で「視覚化」できるだけでなく、その構成要素の部品化にとっても明快な原理を持つ事によって平面でできたパネル要素と3方向のパネルをつなぐジョイントだけで構成すると言う一般性と合理性を獲得できる可能性を持っている。今回追求したのはそうした概念的な情報から物質までの間を自動化する新たな3次元プリンターのような存在だ。しかし、立体的位置関係の概念は建築空間的な機能解決にとってはまさしく中心的主題であり、二次元のパネルで製作できることが運搬を含めた建築生産的な合理性にも合致する事を考えれば、スケールを変えて建築構法の開発とも理解できるつもりである。

 



[出展プロフィール]

池田靖史研究室では、環境に融和する建築や都市を情報技術の応用でデザインする方法を研究している。建築や都市が自然環境と対立するのではなく、自然のシステムに融和することは人類が求め続けて来た理想でもある。情報技術の進歩がこうした建築や都市のデザインにもたらす新しい可能性を研究している。コンピュテーショナルな手法を使って、設計を発想し探索する方法に始まり、実際に造るための部品を生産・組立する方法、さらには実現した空間環境の利用状態を制御する方法までをデータでつなぐ様々な試みをしている。例えば温熱環境のシミュレーションと空間形状の関係から生まれる形状をデジタル制御の加工方法で実現するジオメトリを考案することなどがその一例である。こうした試みを通じパラメトリックに変化できるデータ構造とそのアルゴリズムが様々な最適化と人の感性を融合したコンピュテーショナルなデザイン手法を追求している。

池田靖史

建築家・池田靖史は日本における実践的なアルゴリズミック・デザイン研究のパイオニアの一人である。自然界に存在する生命的な働きがアルゴリズムを通じて都市や建築の人工的な環境構築に応用可能であるという思想に基づいて、環境に関する社会的な要請や具体的な加工技術とコンピュテーショナルな手法を結ぶ包括的な活動や理論で知られている。

www.ik-ds.com


[主な作品]

ikeda_yasushi
池田靖史研究室+松川昌平研究室「DigiMoku」2012