協力:株式会社woodinfo
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三次元レーザー測量は、レーザーの照射と反射を1秒間に約100万回繰り返すことによって、レーザーの当たった表面の座標と色を無数の点群データとして採取する仕組みのものです。この点群データを解析してコンピュータの中に立体モデルとして立ち上げると、自由な視点から空間を一望することが可能になります。
このモデルは、三次元レーザー測量で展覧会の2014年7月19日の閉館後における展示室内の状態とパフォーマンスを記録したものです。この中に、作品が設置される予定の壁に向かって、ボールを投げるパフォーマンスをする人物がいます。この計測方法は表面だけを厳密に拾っていくので、レーザー照射と人物の動きの時間差によって、ブレた状態でモデル化されています。動くものは、ある瞬間には存在すると同時に存在しないような立体として現れるのです。
マテリアリティがすべて捨象され、視界に入る全表面がなめらかな点の集合として現れるのを見ると、この世界全体がなにか別の手触りを持ったものとして見えてくるような気がしてきます。
– 西澤徹夫
3Dスキャニングされてコンピュータ上で立ち上がる点群のオブジェクト=情報からは、重さや硬さや密度といったマテリアリティが失われているのですが、これは、たとえばムクドリの大群がうねりを持ったひとかたまりの造形物に見えたり、あるいは花火が無数の小さな炎の総体として球体に見えたりするときの感覚に似ている気がしています。手では触れられないしオブジェクトの輪郭も定かではないが、なにか別の手触りのようなものが感じられることがあるのです。あたらしい視触感のようなもの。「ひとかたまり性」ゆえなのか、まだまだ精度の粗い点群の低密度さによるザラザラ感ゆえなのか、よくは分かりません。単に「視覚化された情報」である、というには惜しいその感触が、感触と言うからにはなにかしらのmutter(物質)感が、計測と分析と演算の精度が上がってやがてなめらかになっていったとき、再び、しかし以前とは違うかたちで、マテリアリティを取り戻していくかもしれません。その時になって、情報と物質はその形式の差が無効になっていくような気がします。
1974年京都府生まれ。東京藝術大学大学院修了。2000-06年、青木淳建築計画事務所にて、ルイ・ヴィトン銀座店、青森県立美術館の基本・実施設計・監理を担当。2007年、西澤徹夫建築事務所開設。近年は「建築がうまれるとき:ペーター・メルクリと青木淳」展(2008年、東京国立近代美術館)、「馬場のぼる」展(2009年、青森県立美術館)、「パウル・クレー|おわらないアトリエ」展(2011年、東京国立近代美術館)、「今和次郎―採集講義」展(2011年、汐留ミュージアム、青森県立美術館)、「ぬぐ絵画―日本のヌード 1880-1945」展(2011-12年、東京国立近代美術館)東京国立近代美術館所蔵作品ギャラリーリニューアル(2012年)など展覧会の会場構成を数多く担当するとともに、「津軽」(2009年、2010年、2011年、金木芦野公園駅ほか)など舞台美術の仕事も手がける。
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