« mtrlzng II » | 宮城大学 土岐謙次研究室+東北芸術工科大学 酒井聡研究室

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宮城大学 土岐謙次研究室+東北芸術工科大学 酒井聡研究室 『Tele-Flow』

協力:茅原 拓朗/宮城大学事業構想学部デザイン情報学科 教授 鈴木 優 物部 寛太郎/宮城大学事業構想学部デザイン情報学科 助教 中木 亨/宮城大学事業構想学部デザイン情報学科 教育補助 沼田 健太朗/宮城大学事業構想学部デザイン情報学科|プログラミング協力:笹原 伸吾 竹中 裕紀/宮城大学事業構想学部 卒業生|樹木生体データ協力:山口情報芸術センター “Forest Symphony”|音声ストリーミング協力:株式会社JVCケンウッド・デザイン “⁂ Forest Notes”

「Tele-Flow」は、コンピュテーショナルデザインによる乾漆(麻布を漆で固める伝統造形技法)造形制作など、古くて新しい漆の可能性を探る活動を行う宮城大学デザイン情報学科土岐謙次と、「音、振動、光の共調による感性表現の研究」として創作研究活動を行う東北芸術工科大学酒井聡の共同プロジェクトである。本作品はウルシ樹の生体電位を利用して、宮城県南三陸町ながしず地区に植樹されたウルシをデジタルに移植する試みである。
造形は、ウルシの実木から3Dスキャン・3Dプリントした透明オブジェクトと、葉を模した漆フィルムで構成される。マイクロモーターが実装された葉柄は、植樹地からの信号によってかすかに振動し、葉のゆらぎを再現する。また、現場の風や鳥のさえずり、木のざわめきといった環境音をストリーミング再生し、場を再現する。作品全体を通して宮城県南三陸町の豊かな自然の息吹を伝える。  「Tele-Flow」は、さながら現代の技術を用いた遠隔転送装置である。


 

 [essay: 情報と物質とそのあいだ] 

– 土岐謙次

音は空間を捉え、光は空間を露わにしている。そして、そのどちらもが振動である。振動とは事象であり現象である。
現象は、人が見え、触れ、感じられるすべての物事である。情報であり、物質である。しかし、そこに我々が価値を見出す「本質」がなければ、何も意味を成さない。音と光も、情報と物質も、デジタルとアナログも、それらが単独であっても時に協調したとしても本質を捉えなければ、人の感性に強く働きかけることはできない。
私たちがこの場所に転送してきた一本のウルシの樹は、3Dプリンターや3Dスキャナなどといった現代的な道具や漆フィルムといった独自の素材を用いて造形されている。
しかし、それは本質ではない。
ウルシの樹から測定した生体データからマイクロモーターを動かすことで生まれる葉のゆらぎや、現場の風や鳥のさえずり、木のざわめきといったストリーミングされる環境音といった木が植えられている宮城県南三陸町から伝えられる豊かな自然の息吹こそがこの作品の本質である。
そして、この一本のウルシの樹は始まりに過ぎない。
このウルシの樹は、宮城県南三陸町ながしず地区に植樹された100本のうちの一本である。樹木が育ち、林となり森となる様子を、本作品「Tele- Flow」では追い求め伝えていきたい。今は幼木のこの一本も時が経つにつれ成木となる。それと同調して3Dプリンタから形作られる造形も、葉のゆらぎも環境音も変化していくだろう。一本だけでなく100本が森を形成する様子を転送することも考えられる。ウルシの樹を見守るなかで、我々の表現も様々な形態をとっていくだろう。
そして、この作品の本質は上記とは別にもう一つある。日本の美しい文化の1つである漆。そのほとんどが現在は海外産であり、国産漆は激減していることはあまり広く知られていない。この事実を知らせ、そして本来あるべき日本の美しさを保つための漆の啓発としてのメディアの一つの形がこの作品なのである。
たった一本のウルシの樹。そこから情報と物質とそのあいだは感じ取れただろうか。

 



[出展プロフィール]

土岐謙次
クラフトは本来的に、素材とあの手この手で格闘し、自然現象をためつすがめつ操作し、モノに落とし込むために様々な技術と知性を駆使する、ハイブリッドでインテリジェントな営みである、というスタンスに基づき、2002年頃より3Dプリンターを使った漆作品の制作やコンピュテーショナルデザインによる乾漆造形制作の他、建築構造家と共同で乾漆の強度実験を行うなど、古くて新しい漆の可能性を追求している。
kenjitoki.tumblr.com

酒井聡
音、振動、光といった形のない物理現象をそれぞれに、また共調された時に人の感性に対して強く働きかける力とその魅力を表現の素材として用いている。また、様々な領域のコラボレーションにより空間表現を行うアートユニット”Responsive Environment”に参加、創造的な仕事のあり方、持続と循環の方法をさまざまな人々との対話を通じて検証する”logue”など、人と人の関係から生まれる新しい価値の可能性を追求している。
www.sakaiso.com


[主な作品]

toki
土岐謙次「七宝紋胎乾漆透器」2012
sakai
酒井聡「The Phase of Sound #09 “Interference Wave”」2007