« mtrlzng III » | 田部井勝

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(撮影:来田猛)

『Scalable -extend-』

本作品は河原に転がっていた石を3Dスキャナーで形状を数値化し、3Dソフトで編集、そして3Dプリンタで出力をしている。
数値化することは非物質化すること同義であり、物の物理的なサイズとともにスケール感も失われたかに思われる。
しかしデジタルファブリケーション環境により、デジタル情報世界において拡大縮小が自在(Scalable)であった物たちを、現実世界でも任意の大きさで再出力できるようになった。石ころは小石にも岩にも変容して再出現できるのである。
デジタル情報世界における物は、スケール感そのものから解放された状態にあったのだ。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

僕が大学でメディアアートという言葉を知った1990年代後半。メディアアート作品というとプロジェクターによる表現形態が多かったように思う。「メディアアートというよりも、プロジェクターアートじゃないか」と無邪気に友達と揶揄した覚えもある。
そうしながらも、プロジェクターに投影された平べったい画面から抜け出た「新たな表現手法(笑)」はないものか、と思索していた。
デザイン科でMacの使い方を覚えながら、美術科の先輩の手伝いをして半自動溶接機の使い方を覚えた。
金型部に配属されてた職場では切削加工機で鉄を加工し、自宅ではインタラクティブコンテンツをweb上で発表した。
大学院ではプログラミングや電子工作をしながら、木工室や金工室にいりびたった。
Arduinoが登場してからはモーターの制御をやりだし、一方でガス溶接とアーク溶接の資格を取得した。
当時あれほど忌避していたプロジェクターへ寛容になったのは、表現の多様性か、それとも歳のせいか。
いずれにしても、「情報」をデジタル情報技術、「物質」を立体造形技術とすると、僕はそのあいだで表現し、生きて来た。
しばらくやっていれば情報や物質やそのあいだについて思うことがないわけでもない。
しかし物質に直接触れながらものをつくるフェティッシュな感覚と、物質に直接触れずにものがつくれる全知全能的な感覚に突き動かされているだけだったりする。

そうやって僕は器用貧乏の典型として現在に至っている。

 



◉[III]出展者プロフィール

田部井勝
成安造形大学卒業後、プラスチック部品製造会社の金型設計に従事した後、2007年IAMAS(情報科学芸術大学院大学)修了。
今日的なデジタル情報技術とその環境が人々に与える習慣や常識、世界の捉え方の変化を主題に、デジタルデバイス、アクチュエータなどを用いた作品の制作や、webサービスを用いたアートプジェクトの実施をしている。
http://tabeimasaru.com/


 

◉主な作品
III_tabei[Scalable -zoom-]

河原の石の形状をデジタル化し、等倍に拡大したオブジェにプロジェクションをした映像インスタレーション。
映像は石を道ばたに放置し、通行人に気づかれないよう密かに撮影した。遠方から石を捉えるカメラが最大ズームになった時、映像内の石の大きさとオブジェのそれとが一致する。撮影で使用した本物(本当のサイズ)の石は会場になく、実際の大きさは想像するしかない。