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増渕基 『アダプティブな軽量膜屋根』

膜を外縁に折りたたむ可動式屋根の提案。スポークホイールの原理を応用したケーブル構造と、厚さ約1mm の膜の組み合わせるによる軽量構造。少量の材料でスタジアムなどの大空間を覆うことができ、かつ可動に必要なエネルギー消費量も少ない。膜はその柔軟性ゆえに、コンパクトに折りたたむことができるので、収納場所が小さくて済む。

現在までに、この方式による可動式屋根は、いくつかのスタジアムなどで実現されている。屋根を開くときには、膜は屋根の中央に折りたたまれる。しかし、この中央に残される膜の束が、フィールド上に影を作り、TV 放送や競技者の邪魔となる。またメンテナンスもしづらく、美観上も好ましくない。外側に向かって膜を折りたたむことにより、これらの問題を一気に解決する。


 

[essay: 情報と物質とそのあいだ]

“アダプティブな軽量構造-「重い」建築を動かす方法”

「君の建築は一体何トンだい?」と、ノーマン・フォスターに聞いたのは、かの有名なバックミンスター・フラーである。建築は、大きくそして重い。例えばパリのエッフェル塔の鉄骨は約7000 トン、この手の話でよく取り上げられる北京スタジアム“鳥の巣”は約42000 トンである。

用途に応じて空間を変化する多目的型の建築の需要は日増しに高まっている。それにも関わらず、ほとんどの建築が「動かないこと」を前提に設計されているのは、その重さが理由の一つであると言えるだろう。形態や様態が変化するようなアダプティブな建築とは夢物語であろうか?このような近未来的な構造物の研究や開発は、その呼び方は違えど、世界の至る所で行われている。しかしそのほとんどは、小さなスケールの、それも非構造部材に限られる。構造体自体がダイナミックに変化するような、アダプティブな建築は不可能であろうか。

軽量構造が、その一つの回答である。軽量構造は、自重が小さいので、早く、そして容易に動かすことができる。重い構造物を動かす場合と比べると、可動機構にかかる負担はかなり小さく、消費するエネルギーは格段に少ない。軽量構造の原則のひとつとして、「曲げがないこと」が挙げられる。軸力系の立体構造システムは、大空間を覆う場合などは特に合理的かつ経済的である。軸方向の動きだけで、このような構造物の応力状態をコントロールできれば、可動機構は大分シンプルになる。当然ながら、可動機構が複雑になればなるほど、不具合を起こす可能性は高くなる。可動機構は可能な限りシンプルであることが望ましい。さらに、しなやかな素材を用いれば、小さく折りたたむことも可能である。ヒンジは変形を制御するためには有効であるが、構造的な連続性は失われる。折りたたむといったような大変形を、ヒンジなしで行えるのは大きなメリットである。シュライヒは、現代的な軽量構造物の特性として以下のものを挙げている。[自然で美しい/ エコロジカルである/ 社会性を有する/ 構造が正直である/ 解析が容易/ 求められる建築性能に柔軟に対応可能/ 必ずしも高価ではない/ サステイナブル]これらは、アダプティブな性能を付加しようとも、失われない特性である。

参考)
-「 How Much Does Your Building Weigh, Mr. Foster?」(2011)
– Schlaich, M., “Light-weight double-curved structures” special lecture at Uni. of Tokyo, 19-04-2013
– Sobek, W. and Teuffel, P.“ Adaptive Lightweight Structures,” Proceedings of the IASS Symposium, 2002, Warsaw.

 



[略歴] (2013/06)

橋梁・構造エンジニア。アダプティブな軽量構造と橋梁デザインを理論と実践の両面から探っている。

1979年鎌倉市生まれ。北海道大学、スウェーデンのチャルマース工科大学卒業。2012年ベルリン工科大学にてマイク・シュライヒのもとで博士号取得。

2011-2012年、シュライヒ・ベルガーマン&パートナー、2013年よりヴェルナー・ゾーベック・シュトゥットガルト勤務。

http://masubuchi.de/


[主な作品]

 

剛体折紙+負圧膜構造(舘知宏、岩元真明と協働)

剛体折紙と負圧膜構造のハイブリッドによる可動建築の提案。多自由度の剛体折紙構造は折畳み・展開によってさまざまな変形が可能だが、単独では剛性が低く構造として成り立たない。一方、負圧によって生じる充填物間の摩擦力によって剛性を確保する負圧膜構造は、圧力を変えることでその剛性を調整することができる。剛体折紙構造のヒンジ部(折り線)に負圧膜構造を応用することで、大気圧時には柔軟に変形し減圧時にはヒンジが剛接合となった折板構造が形成される。

images © E+K-Massivbau,TU-Berlin/Motoi Masubuchi